解説編
解説1 『中学校英語に関する基本調査』から示唆されるもの
〜小中連携を中心に〜
上智大学教授 吉田 研作
今回の調査では、中学校において教師と生徒が英語についてどのように考えているかということを多角的見地から見ることができた。小中連携の問題や他教科に対する生徒の姿勢と英語に対する姿勢の違い、そして、何よりも、中学生と教師それぞれが自らの英語学習、英語指導についてどのように考え、実施しているかについて様々な示唆を得ることができた。本章では、その中から、特に小中連携の問題を中心に検討してみる。
1.中学校入学前の英語学習
英語教育における小中連携は、『第1回小学校英語に関する基本調査』(2006)の教員調査でも分かる通り、小学校英語にまつわる様々な問題の中でも、最も大きな問題として指摘されている。そして、そのことは本調査の「教員調査」にもはっきり表れている。しかし、そのことを直接議論する前に、まずは、中学生自身が小学校で学んだ英語についてどのように思っているかについて「生徒調査」の結果から見てみよう。
まず、中学生の英語に対する気持ちと小学校で英語を学んだかどうかの関係について見ていこう。中学生にとって、英語はもっとも好きではない科目の一つになっている。また、英語の授業を70%以上理解できている生徒は、わずか40%程度にすぎないことが分かった。しかし、小学校から英語を何らかの形で学んできて、好きだった生徒は、中学に入っても好きと答えるケースが比較的多いこと、そして、好きな生徒が英語を得意としている傾向があることも分かった。
もちろん、今回の調査では因果関係についての分析は行われていないので、はっきりと断言はできないが、上記の結果は、中学校入学前の英語学習が、中学校以降の英語学習に影響を与える可能性があることを示唆していると言ってもいいだろう。もしそうだとしたら、小学校でどのような英語学習が行われたかによって、中学校以降の英語学習が変わってくることが考えられ、それだけ、小学校における英語学習の内容の重要性が問われることになる。
では、小学校時代の英語学習について見てみよう。今回の調査では、中学校に入る前に英語が好きだったかどうか、また、中学校で英語を学ぶことが楽しみだったか、という質問に対しては、好きだったという生徒、楽しみだったという生徒は共に50%に達しなかった。この結果だけを見ると、小学校で英語を学ぶことは必ずしもプラスの効果を生まないことが示唆される。これはどうしてだろうか。小学校英語活動自体を否定するものなのだろうか。
直接の原因かどうかは本調査だけでは分からないが、小学校時代の英語の学習の内容が何らかの形で影響している可能性が高い。特に、今までの小学校での英語教育は、各校が独自の取り組みを行っており、特に公式に決まった指針が示されていたわけではない。中には、文字を全く読ませないというところから、中学校の英語教育を前倒ししているところまで千差万別である。では、本調査の対象となった生徒が、中学校入学前にどのような内容を学んでいたのかについて見てみよう。
本調査でまず分かったことは、中学校入学前に学校外で英語の学習をしていた生徒は約4割に上っていること。その内訳をみてみると、学習塾が最も多く、続いて英会話教室となっている。また、前述したように中学校入学前に英語が好きだった生徒は半数に満たなかったが、学習塾や英会話教室で勉強した経験のある生徒は、概して、中学校入学前に英語が好きだった(それでも62.2%)ことが分かる。一般に、小学校英語活動を「好き」と答える生徒は多い、と言われてきた。現に、先に紹介した『第1回小学校英語に関する基本調査(教員調査)』(2006)から、小学校英語で一番問題がないのは子どもの積極性(70.1%)だったことを考えると、62.2%でもまだ低いと言えるだろう。では、なぜこのような数字になるのだろうか。
今回の調査で、中学校入学前に学校外で英語学習をしていた生徒のうち、学習塾に通っていた子どもは46.3%、英会話教室に行っていた子どもは42.0%となっているが、中学生になると、学校外で英語学習をしている生徒のうち、学習塾が81.0%に対して、英会話学校はわずか8.7%に下がっている。このように、中学生になると学習塾に通う生徒が急激に増え、逆に、英会話教室に通う生徒が急激に減っていることから、生徒、また保護者が小学校英語活動と中学校英語を明確に区別していることが推測できる。それと同時に、小学校で英語活動を体験してきた生徒にとってそのあまりの違いが大きな戸惑いの原因になっていることが考えられるのではないだろうか。
