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教員養成に必要とされるグランド・デザイン
──教師の教育基盤をアップグレードするために──
佐藤 学[東京大学大学院教育学研究科教授]

高い教養水準がストックされていた士族層を基盤に近代教育をスタートさせた日本は、戦後も先進諸国に先駆けて「大学における教師教育」を実現させた。
だが日本の教師の優秀さを支えた基盤は崩壊の危機に瀕し、教師教育を大学院レベルへ引き上げた欧米に遅れをとっている。
東京大学・佐藤学先生は、日本の教師教育の質を向上させるには小手先の改革ではなく現在のリソースを複線で生かすグランド・デザインが必要だと提言する。
だが日本の教師の優秀さを支えた基盤は崩壊の危機に瀕し、教師教育を大学院レベルへ引き上げた欧米に遅れをとっている。
東京大学・佐藤学先生は、日本の教師教育の質を向上させるには小手先の改革ではなく現在のリソースを複線で生かすグランド・デザインが必要だと提言する。
教師の資質を支えた高い教育水準と研修文化
教師の資質力量と教員養成の在り方が重大な改革イシューになっています。しかし、現時点で問題の所在がどこにあるのか、近視眼的ではなく、歴史的・国際的な視点から広く捉え直さなければいけません。対症療法的にあれこれ積み上げるだけでは、混乱を招くばかりです。まず、現状を捉える上で重要なのは、日本の教育水準の高さが歴史的に見て教師の資質ないしインテリジェンスの高さに専ら依拠してきた、という事実の確認です。
日本は明治維新直後に欧米の学校モデル、教師教育モデルを導入して近代の公教育制度を築きました。その基盤を形成したのは、四民平等によって大量に生み出された失業者の士族層です。幕末期における地方の藩校藩学の教育水準の高さは世界的にも屈指であり、高度な「知のネットワーク」が築かれていました。例えば森外にしても福沢諭吉にしても、津和野(現在の島根県)や中津(現在の大分県)といった地方において、最高レベルの水準の教育を受けてきた人たちです。幕末から明治期にかけ、こうした高い教養水準が士族層の中にストックされており、それが近代学校の成立過程において教師の基盤になっていました。
一方で当時のヨーロッパ諸国の公教育を見ると、アルファベットが書ける程度の水準の低い教師も多かったようです。アメリカの場合は、1880〜90年代に優れた女性教師を確保できましたが、これは教養の高い女性の仕事が教師くらいしかなかったからで、当時の教師の約8割が女性でした。アメリカを度外視すれば、日本は国際的に見ても最初から高水準の知識教養を持った人たちが教職に就いていた希有な国といえるでしょう。
さらに戦後も日本の教師教育は世界最高レベルで再スタートを切りました。南原繁を委員長とする教育刷新委員会の提言によって、中等教育レベルにあった戦前の教師教育を一挙に高等教育レベルに引き上げ、「大学での教員養成」を実現しました。戦前の反省から、自由な思想を育むリベラルアーツ教育、すなわち大学での一般教養を前提とした教師教育を進めたのです。アメリカで当時、大学で教師教育をしていたのは17州にすぎません。ヨーロッパ諸国では、義務教育段階の教師教育は戦前の日本と同じく中等教育レベルでした。こうしてみると、日本が敗戦直後の最も困窮していた時期に世界最高の教育水準で教師を養成し始めたのは画期的なことです。
日本の教師の資質力量を支えてきたのは、高い教育水準に加えて、現職教師たちの自主的な「研修文化」です。これは日本独特の優れた慣習でした。例えば書店で教育書の棚を見ると、教育学者が書いた本よりも、教師が書いた本の方が圧倒的に多い。こんな国は他にありません。
日本の教師たちは誰に強制されたわけでもなく、自主的に自らの専門家としての能力を高め、経験を分かち合うための研究会や研修組織、ジャーナルを持っていました。とりわけ世界に注目されたのが校内研修です。学校単位で互いに教師が授業を見学し合い、技量を高めていくレッスン・スタディ。学校の中で授業を公開することによって実践と理論を結びつけていく方法の有効性が、世界に広く知れ渡りました。
高い給与水準も日本の教師の優秀さを支えました。高度経済成長の進展に伴い、教育学部の優秀な学生が雪崩をうって一般企業へ就職します。このままでは優秀な人材が学校に確保できないので、1971年に制定された「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」以降、教師の給与水準を一般公務員の2割増にする優遇措置が施されてきました。これによって優秀な人材を確保することができた。諸外国では教師の給料が低く、志望者が少ない状況に苦しんでいましたが、日本の場合はつい最近(2001年)まで、平均12倍という高い競争率で優秀な教師を採用してきたわけです(図表2)。
![図表[2]公立学校教員の採用競争率の推移](img/satou_fig02.gif)
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