[ スペシャルインタビュー ]
生きる力を育む[3つの力]と[お手伝い至上主義]
〜「制限と自由」を与えていますか?〜
三谷宏治 K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授
子どもに求められる力を社会や実業の世界の視点から捉えなおすことも不可欠と思われる。ビジネスの最前線でコンサルタントとして活躍し、今は、社会人を対象としたK.I.T.虎ノ門大学院の教授を務める一方、小学校のPTA会長などとして子どもの教育に積極的にかかわっている三谷宏治氏に、子どもたちに求められる力やその力を伸ばす際に重要と思われる考え方や実践法のポイントをうかがった。
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三谷宏治 先生
K.I.T.(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授、グロービス経営大学院 客員教授、早稲田大学ビジネススクール 非常勤講師
【プロフィール】三谷宏治(みたに・こうじ) 1964年生まれ。東京大学理学部物理学科卒、INSEAD(仏フォンテーヌブロー校)MBA修了。87年ボストンコンサルティンググループ入社、96年アクセンチュア入社。06年退職後からは教育の道へ。小・中・高等学校を中心に様々な教育活動中。07年、三女の通う地元の区立小学校のPTA会長を務める。高校生を筆頭に三人の娘の父。著書に『トップコンサルタントがPTA会長をやってみた - 発想力の共育法』(英治出版)『観想力 - 空気はなぜ透明か』(東洋経済新報社)、『突破するアイデア力』(宝島社新書) など。
※三谷3研: http://www.mitani3.com
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最初、経営コンサルタントの会社に就職したのは、20代は自分を鍛える時期と考えたからです。最初から先のビジョンを描いて就職先を決めたというよりも、“そのときあるもの”−そのときは自分を鍛えること−を大事にしました。コンサルティング会社に入ってからは、様々なビジネスの領域にかかわることができましたが、常に“何かをみつけたい”と思って仕事をしていたように思います。
私はもともと人を教えるのが好きで、コンサルティング会社にいたときも、社員研修のプランを作成することなどに積極的にかかわってきました。そして、経験を積むにしたがって、講演や書籍の出版など、仕事の範囲も広がっていきました。あるとき6歳違いの弟から「ビジネス面で強くて、かつ、教えることが好きな人は少ない」と言われ、「あぁこれか、教えることが自分の一番の社会的価値なんだな」と気づきました。42歳でビジネスが一段落ついたので、教育の世界に直接かかわることにしました。今は自分独自の教育コンテンツをつくっていきたいと考えています。PTA会長として教育にかかわっていたのも、その一つなのです。
ビジネスでの研修やコンサルタントでも“教える(=導く)”という点では同じですが、組織の方向は変えられても、人自体はなかなか変わらない−相手は大人ですから−ですね。子どもたち相手だと、そこが違う。気持ちや考え方、行動まで変わる可能性が十二分にある。やりがいのある仕事だと思います。
一言で言うと、ことばとしては誰もが知っている「生きる力」になるのでしょうね。
ただ、「生きる力」を発揮するには、前提として生きることへの「意欲」が必要ですし、そこから更に、「自分で決める力」と「発想力」が必要です。
「意欲・自分で決める力・発想力」の「3つの力」は、今までの日本では、どちらかといえば本人に任せきりで、家庭にも学校にも育む場所や機会や環境が少なかった。アメリカなら、他人と違う「発想力」は、小さいころからとても賞賛される環境にあります。あるいは、ヨーロッパも、早いうちから専門が分かれる教育システムであるため、「自分で決める力」を養う機会がありますし高等教育もそちらに主眼があります。しかし日本の場合、この「3つの力」については、社会や家庭といった環境の面でも教える方法論の面でも、とても弱いと思っています。
私は今の日本の子どもたちをめぐるこのような状況に、かなりの危機感を抱いており、コンサルティングという仕事で培った力を教育現場で活かす取り組みを始めました。しかしながら、この「3つの力(意欲・自分で決める力・発想力)」を本当に育む場は、学校ではなく家庭にあり、機会は保護者が作るものだと思っています。
まず、「意欲」と「自分で決める力」については、お小遣いを少なくしたりテレビやゲーム時間を限ったりといった「制限」を設けることが必須だと思います。
うちの長女と次女が小学生で、三女が保育園児だったときのことです。近所でお祭りがあったので、特別にお小遣いを計500円渡したんですね。ふだんお小遣いが少ない3人ですから、お金をうまく使うことに「意欲」的になりました。ただ、500円は3で割り切れないので、どう使うか「自分で決める力」を発揮しなければなりません。彼女たちの行動は、実に興味深かったですね。
まずは、30軒はある屋台をひとつずつリサーチした。そして、ひとり100円ずつ自由に使い、残り200円は合議制で決めることにした。この200円こそ、いちばんいいものが買えることを長女と次女はわかっています。そこで、三女をどうやって自分の陣営に引き入れるか、必死に考えて説得していました。
ふだんからお小遣いをたっぷりもらっていたり、欲しいモノをなんでも買い与えてもらったりしていたら、こうした行動はなかったでしょう。
もう1つ重要なのが「自由」。自由は「暇」と言い替えてもかまいません。この「制限と自由」をどうバランス良く組み合わせるかが、大切なのです。
お小遣いが少ないという「制限」はあるけれど、時間的な「自由」はたっぷりある。そんな状況の子どもは、本当に工夫して遊ぶようになりますよ。おもちゃがなくてもかなり本格的な「ごっこ遊び」を作ります。前日から「あした○○屋がオープンします!」といったチラシやパンフレットが配られたり(笑)。この自由な時間をなくして、塾だ、習い事だと埋めてしまうと、子どもはその通り動くだけになり、いろんな工夫をしなくなります。
家庭で実践した例としては、ほかに「決めることを楽しくする作戦」があります。意思決定につきまとう嫌な部分をイベント化することで楽しくするのです。
小5のとき次女が「人生は繰り返しばかりでつまらない」と言いだしたことがありました。確かに日常生活はそういう面があります。私は何か楽しい「自分で決める」イベントを与えようと考え、家族5人の一泊旅行を次女に全てまかせることにしました。予算は10万円です。
10万円で5人の移動と宿泊と娯楽を全部考えなければならないのですから、次女はつまらないなんて言っている場合ではなくなりました。遠くへ行けば交通費がかかるし、近いところは新鮮味に欠ける。クルマは騒げて楽しいけれど電車よりコストがかかる(うちには車がない)から、その分、宿は激安にしよう…など、いろいろ決めていました。旅行中のお金の管理もすべて次女まかせ。予備費からおやつ代をいくら出すかなどの意志決定を随時していました。
彼女はこの旅行計画で、少なくとも1か月は楽しんだし、「自分で決める力」も育まれたと思います。親からすれば、どこへ連れて行かれるかわからないリスクはあったけれど、口出ししたらおしまいです。ドキドキハラハラ。でも、意外と楽しかったですよ。
このほか、進学先や部活を決めるときも「自分で決める力」を育てるいい機会です。保護者がそういう機会を上手にいかしていくことが大事だと思います。
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